糖尿病

糖質と脂質はどちらがより太るのか

菓子を食べる女性

こんにちは。

さて今回は糖質と脂質はどちらがより太るのかを検証しようというお話です。

世間では糖質制限(=高脂質摂取)や脂質制限(=高炭水化物)など、様々な食事パターンがありますね。

食事パターンでいけば伝統的日本食、地中海食、DASH食などなど他にもたくさんあります。

食事パターンの変更を検討するときというのは、多くの方にとって自分の身体に対して何かを考えたときなのではないでしょうか。

例えば、痩せたいとか、糖尿病になったとか、脂肪肝を指摘されたとかです。

どのような目的を達成したいのかで食事パターンも柔軟に取り入れるのがよいですが、いずれにせよ痩せることが目的となる方が多いと思います。

では痩せるためには糖質と脂質のどちらがより重要なのでしょうか。

逆に言えば糖質と脂質はどちらが太るのでしょうか。

「糖質の摂り過ぎは太る」とは良く耳にしますが、どれくらい太るのでしょうか。

今回はそこのところを解説していきます。

脂質過剰だとどうなるのか

まずは脂質から見ていきます。

食物中の脂質の90%以上はトリアシルグリセロール(いわゆる中性脂肪、TAG:triacylglycerol)です。

TAGはグリセリン骨格に3個の脂肪酸がエステル結合しています。

TAGが経口摂取されると色々な消化吸収を経て、キロミクロンに組み込まれてリンパ管を流れて胸管に到達した後、左鎖骨下静脈から血中に流れこみます。

キロミクロンは腸管粘膜細胞で合成されます。

TAGやコレステロールエステルは疎水性が高いため、そのままでは水溶液中で凝集してしまいます。それを防ぐためにTAGやコレステロールエステルをアポリポタンパク質B-48やリン脂質、非エステル化コレステロールの薄層で包んだ油滴粒子がキロミクロンです。

脂肪をたくさん摂取した後はキロミクロンがリンパに豊富となりミルク様になり、そのようなリンパを乳びといいます。

採血でTAGが高値であった際に「乳び」と記載されることがあるのは上記の内容からです。

さてキロミクロン中のTAGの多くは骨格筋、心筋、脂肪組織の毛細血管でリポタンパク質リパーゼ(LPL:lipoprotein lipase)により遊離脂肪酸とグリセロールに分解されます。

遊離脂肪酸は筋肉や脂肪細胞に取り込まれ、エネルギーとして使用されます。

グリセロールはほとんどが肝臓に取り込まれ、グリセロールキナーゼで酸化されグリセロール-3-リン酸となって、解糖系や糖新生系に使用されたりTAG合成に使用されます。

以上が通常の状態での脂肪の代謝であり、脂肪はエネルギーとして使用されたり糖新生に使用されたり、TAG合成に使用されたりすることがわかります。

後で絡んでくるのでここで説明いたしますが、骨格筋に取り込まれた脂肪酸がエネルギーとして使用される流れとしては、脂肪酸は細胞質内やミトコンドリア内で色々あった後に(β酸化)アセチルCoAとなり、オキサロ酢酸と縮合してクエン酸を生成するところから始まるTCA回路によってATPが産生されます。

ATPとはもちろんエネルギー源のことですね。

ではエネルギー過剰状態ではどうなるのでしょうか。

遊離脂肪酸は脂肪細胞に取り込まれ、エネルギーにする必要がないため再びTAGとなってエネルギー必要時まで貯蔵されます。

つまり、エネルギー過剰状態であれば摂取した脂肪(TAG)はそのまま脂肪(TAG)として貯蔵されることになります。

極端に言うと、脂質摂取で360kcal(40g)オーバーしてしまったら、それは脂質として蓄えられるということです。(要するに脂肪で太る)

糖質過剰だとどうなるのか

では次に糖質過剰時を考えていきます。

まずは通常時の糖代謝を肝、脂肪組織、骨格筋でざっくりと説明します。

糖といっても単糖類・二糖類・多糖類などありますが、ここでは糖質=グルコースとして考えます。

肝臓ではグルコース増加によってGLUT2を介して門脈血の約60%のグルコースを取り込みます。

取り込まれたグルコースはグリコーゲンとして蓄えられたり、解糖系に回ります。

脂肪組織ではインスリン濃度上昇によってインスリン感受性GLUT4が細胞表面に出現し、グルコースが脂肪組織に取り込まれます。

取り込まれたグルコースは解糖系に入ります。

骨角筋では脂肪細胞のようにインスリン感受性GLUT4によってグルコースが取り込まれ、エネルギーとして使用されたりグリコーゲンの合成に使用されます。

ではエネルギー過剰(ATPが豊富に余っている)だとどうなるのでしょうか。

エネルギー=ATPとして進めていきます。

肝臓に取り込まれたグルコースはグルコキナーゼによってグルコース6-リン酸になり、グリコーゲンになったり解糖系からピルビン酸への代謝が促進します。

グリコーゲンの貯蔵限界に達しているとグルコース6-リン酸からピルビン酸の代謝に進むようになり、ピルビン酸はピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性化によってアセチルCoAとなります。

ここでエネルギー過剰でなければアセチルCoAはTCA回路に入ってATP産生に使用されますが、エネルギー過剰(ATP過剰)であればTCA回路が抑制され脂肪酸合成が促進します。

TCA回路はアセチルCoAがオキサロ酢酸と縮合しクエン酸となるところから始まる回路で、多くのATPを産生することができたのでしたね。

このTCA回路の制御にはATP濃度が関わっていて、エネルギー過剰状態時(ATP過剰時)ではATPによってイソクエン酸デヒドロゲナーゼが阻害されます。

イソクエン酸デヒドロゲナーゼが阻害されるとクエン酸はミトコンドリアの細胞質に移行し、ATP-クエン酸リアーゼの働きを受けてアセチルCoAとオキサロ酢酸になることでTCA回路が抑制されます。

以上の流れを一言でまとめると、エネルギー過剰であれば糖質は脂肪酸に変換されるということです。

このエネルギー過剰であれば糖質が脂肪酸に変換される流れは脂肪細胞でも骨格筋でも同様に起こります。

エネルギー過剰であればTCA回路が抑制されてアセチルCoAから脂肪酸が合成されるのです。

ということでエネルギー過剰な糖質は脂質に変換されるということですが、それはすでに皆さんも知っての通りだと思います。

問題は糖質はどれほど脂質になるかということです。

糖質はどれくらい脂質になるのか

では糖質はいったいどれほど脂質になるのでしょうか。(糖質から変換される脂肪酸で考えます。)

脂肪酸を摂取して余った分を身体に蓄えるのとはわけが違います。

糖質を脂肪酸という異なる物質に変換しないといけないわけで等価交換とはいきません。

ポイントサイトで貯めたポイントをマイルに変換するときも、1ポイント=1マイルのように等価交換はできません。

グルコースでカロリーオーバーになったらどうなるかというと、実はオーバーした分が即座に脂肪になるわけではありません

ではグルコースが過剰になるとどうなるのでしょうか。

The American Journal of CLINICAL NUTRITIONの論文をご紹介いたします。

Glycogen storage capacity and de novo lipogenesis during massive carbohydrate overfeeding in man

論文では3人の男性に3日間の低炭水化物食と運動でグリコーゲンを枯渇させた後に7日間、炭水化物を過剰に摂取させて糖質代謝がどうなるかを見ています。

論文では、最初の3日間で摂取カロリーを約2,000kcalから約1,300まで減少し(栄養バランスは炭水化物10%、脂質75%、タンパク質15%)、その後は約3,500kcalとして7日かけて約5,000kcalまで増やしています。

過剰状態時のエネルギー栄養バランスは炭水化物86%、脂質3%、タンパク質11%となっています。

過剰時の炭水化物摂取量は約4,300kcalで1日1,075gの摂取となります。

結果としては、炭水化物過剰となっても脂肪合成を行う前にまずはグリコーゲン貯蔵量を増やして対応し、グリコーゲン貯蔵量が限界になるとエネルギー使用を脂肪から糖質の酸化に切り替えることと、脂肪合成が始まったとのことです。

成人男性の場合はグリコーゲン貯蔵量を15g/kgまで増加することができるので、糖質過剰になっても脂肪合成前に約500gのグリコーゲン貯蔵で対応できるとのことです。

つまり2,000kcalの糖質オーバーであれば500gのグリコーゲン貯蔵となり、脂質は合成されないということになります。

ちなみに論文では、炭水化物過剰摂取を続けたら脂質が合成されるようになったけど、脂質の合成量は1日当たり150gだったよとも言っています。

糖質を1日1,000g以上摂取して、ようやく脂質が150gできたのですね。

糖質で4,000kcalくらいあったものが脂質で1,350kcalくらいになってしまうのでは、脂質合成はkcal的には非効率ですね。

では同じカロリーオーバーでも高炭水化物と高脂質では体重や脂肪の増え方はどうなるのでしょうか。

オーバーするカロリーが一緒なら体重増加も一緒なのでは?(体格などベースが一緒であれば)と思いますが、British Journal of Nutritionに論文があります。

Effects of isoenergetic overfeeding of either carbohydrate or fat in young men[PDF]

これは20人の20‐25歳の非肥満である健康な男性を高炭水化物群と高脂質群に分けて3週間生活をしてもらい、体重や脂肪の変化を見たものです。

高炭水化物摂取者と高脂質摂取者は1人ずつペアになってもらい、3週間は一緒に生活し、同じ運動をしていることを確認し合い、食事も同じ場所で食べています。

高炭水化物群も高脂質群も1日約4,600kcalしており、エネルギー栄養バランスは高炭水化物群で炭水化物78%、脂質11%、タンパク質11%、高脂質群で炭水化物31%、脂質58%、タンパク質11%となっています。

炭水化物量を考えると高炭水化物群では約3,500kcalで875gですが、低炭水化物群でも約1,400kcalで350g食べていますので、日本の糖質制限推進派の言うところの糖質制限はできていません。

まぁそれはいいとして結果はどうだったかというと、体重増加と脂肪増加は高炭水化物群と高脂質群で有意差がなかったものの、除脂肪体重は高炭水化物群の方が増加していたとのことです。

増加体重が同じとすると高炭水化物群の方が脂肪増加は少なかったということですね。

さらにもう1つこんな論文がありました。

Effect of Carbohydrate Overfeeding on Whole Body and Adipose Tissue Metabolism in Humans

これは健康な男女を2群に分けて脂質とタンパク質量は変えずに炭水化物だけを増やす群と増やさない群で脂肪合成なんかの違いがどうなったかを調べたものです。

通常群は摂取カロリー約2,400kcalで栄養バランスは炭水化物50%、脂質 35%、タンパク質9%、高炭水化物群では摂取カロリー約4,200kcalで炭水化物71%、脂質 29%、タンパク質9%となっています。

%でいくと数字が異なっていますがg換算すると両群の脂質とタンパク質摂取量は同じです。

結果として、通常群では糖質の58%はグリコーゲン合成に使われ、42%は酸化されて脂肪合成はほぼ起きなかった一方で、高炭水化物群ではグリコーゲン合成は30%に抑制されたが、酸化は57%に、脂質合成は13%に増加しました。

つまり高炭水化物を摂取してもガンガン脂肪が合成されるわけではないということです。

まとめると糖質が過剰になると、

1.まずはグリコーゲン貯蔵量が増える。成人男性で500gくらい。

2.グリコーゲン貯蔵量が限界になると糖質をエネルギーとして使い始める。(それまでは脂質だったものを糖質に切り替える)

3.それでも糖質が余れば脂肪が合成され始める。

ということです。

糖質はなぜ脂肪になりにくいのか

以上の結果から、脂質は360kcal(40g)オーバーするとそのまま脂質として蓄えられますが、糖質で360kcal(90g)オーバーしてもグリコーゲンとして蓄えられ脂質が増えないことがわかりました。(グリコーゲン貯蔵の分、体重は増えています)

つまり、糖質は少々カロリーオーバーしても簡単には脂質になりません

それはなぜでしょうか。

糖質から脂質を作るには物質の変換を行わなくてはいけず、それには色々な反応が関わらなくてはいけません。

そして糖質1gから作られる脂質は約0.28g程度なので、カロリーに換算しても糖質4kcalから脂質2.52kcalとなり、身体としてはせっかく手に入れた貴重なエネルギーを減らしてしまうことになります。

つまり身体にとって糖質を脂質に変換するということは『色々な反応を起こさなきゃいけない上にカロリーロス』ということで、そんな面倒なことはやらずに済むならやらないよという作業なのです。

そのため身体としては、余った糖質は「まずはグリコーゲンで保管だ!」となりますし、それでも余っていたら「まだ糖質あんの?脂質に変換するのは面倒なんだよね。ええい、エネルギー源を脂質から糖質にして糖質使っちゃおう!」となります。

それでも糖質が余っていると「まじか。どんだけ糖質食うの?こうなったら脂質に変換しとくしかないじゃん。面倒くせ。」となるわけです。

それではなぜ世間では糖質で太るなどと摩訶不思議な説が広まっているのでしょうか。

1つはグリコーゲンが増えたことを太ると勘違いしているかもしれません(まぁ、たかだか500gなので意識されていないかもしれませんが)。

もう1つは、お太りになっている方は糖質過剰になっていることが多いと考えますが、糖質過剰となっている人の多くは脂質も過剰となっているからです。

糖質のみのカロリーオーバーであれば脂質合成は少ない(増える体脂肪が少ない)わけですが、ここに脂質によるカロリーオーバーも加わることで余分な脂質は直に体脂肪となって蓄えられているわけです。

さらに糖質&脂質過剰のお太りの方は運動不足ですから、カロリーオーバーで糖質の酸化率が高まってくれていても消費していないのです。

まとめ

とまぁここまできたら糖質と脂質でどちらが太るのか(脂肪が増えるのか)は自明の理ですね。

脂肪は余った分だけそのまま脂肪として蓄えられます。

糖質は少し余ったくらいでは脂肪は増えません。

ということでカロリーオーバーするなら糖質なのです。(体脂肪を増やしたい人は除く)

無論、痩せるときはカロリーダウンしないといけませんが、どこかでカロリーオーバーになっても糖質なら簡単には体脂肪になりません。

油断してあっという間に体脂肪リバウンドなんてことにならないように、減量中も糖質をしっかりとりながら脂肪量は意識することが大切です。

ということで、糖質制限ではなく糖質&脂質コントロールとタンパク質摂取、忘れちゃいけない運動(糖尿病治療の場合は食事と運動は両輪です)で糖尿病完治やキレイな痩せ方を目指しましょう!

ではでは。